初めまして、が適切なんだろうと思う。俺の名前は洸輝、御神洸輝(みかみ こうき)という。
御神真刀流古刀術、そう呼ばれる剣術の一応師範をしている。半年前に親父に勝って継承者になったからだ。
俺は秋清水高校に通う高校生だ、学年は二年。今日は終了式だったので来年度から三年になる。
帰り道を歩くのは俺を含めて三人。
一人は御凪竜児(みなぎ りゅうじ)という、眼鏡をかけて茶色の髪を短く切りそろえたぱっと見では優男と呼ばれるだろう格好の男。
自他共に認める天才なのだが、どういうわけかそれを鼻にかけることを嫌う不思議なやつ。
武術は鑓術をやっているらしく、俺であっても親父であってもかなり梃子摺るほどの実力を持っている。
中学からの付き合いで、俺ともう一人と一緒の高校にくるためだけに全国的に有名な進学校を蹴ったやつだ。
もう一人は逸理、終日逸理(ひねもす いつり)という、膝裏まで伸びた黒髪と瓶底眼鏡をかけた男。
普段かけている瓶底眼鏡があるからわからないが、黒と翡翠の虹彩異色症(オッドアイ)になっている。
俺と竜児が二人で同時に相手しても攻撃が当たらない、当たってもダメージにならないという回避と受け流しを基本理念にしているやつ。
殆ど攻撃してこないから勝敗は必ずドローになるが、喧嘩になると囮になって相手を混乱させるのが殆どだ。
帰り道では向かって右から俺、逸理、竜児という順番に並んで歩く、いつの間にか定着した順番だ。
そう、俺たち三人は普通に通学路を歩いていただけのはずだ。
なのになんで、何で俺たちは林を背にしたうえに見知らぬ高台で海を眺めているんだろうな?








彼方よりの異邦人【Der Fremde】 act.1






すでに日は暮れており月と星が自己主張する黒いビロードのような空の下、三人の青年が高台で海を眺めている。
三人とも一様に黒のブレザーを着ており、その襟元の襟章からどこかの高校の生徒であることが予想される。
一人は短髪、後ろに逆立てるようにした黒髪と少しきつめの目をもつ、海を凝視している青年。
一人は短めに切りそろえた茶髪と、フレームレスの眼鏡をかけた童顔の、手持ち無沙汰で辺りを見回す青年。
一人は膝裏まである黒髪を流れるままに、瓶底眼鏡をかけて空を見上げている黒いロングコートの青年、青年でいいはず。
順に御神洸輝、御凪竜児、終日逸理という、秋清水高校在学の青年たちである。
もっとも、秋清水高校では『三王』と一括して呼ばれることも多々あるのだが。

「僕は何も思いつかないよ、洸輝は?」

「同じだ。というか何でここにいるのかわからんし、何で夜になっているのかもわからんし・・・・」

竜児と洸輝はお手上げ状態のようだが、逸理は微動だにせずただ空を眺めているまま。

「逸理、なんかわかったかー?」

考え込んだ様子の竜児から視線を外し、空を見上げる逸理に洸輝がたずねる。
逸理はそのまま空を見上げ、視線も姿勢もそのままで洸輝に答えた。

「星の配置と空の模様が一致しない。星の配置はある意味未来にあるべき場所で、空の模様がまったく違う」

「はぁ? つまり此処は未来だってのか?」

「それに対する答えはNo、例え未来に来たとしても空の模様が違うということはありえない、それこそ異世界に来ない限り」

逸理の言葉に口を開けて固まる洸輝、勢いよく振り返り逸理を見つめる竜児。
逸理は目線を空から海へと変える。竜児がじっと見つめる中で、逸理が更に言葉を繋げる。

「海も違う。本気で異世界にきたとでも言うのか、これは」

「異世界って、いきなり言われてもわからないけど・・・・街中を歩いていただけなのに、いきなりこんな場所に出たんだしね? 僕らになにが起きたって言うんだろうね・・・」

そんな二人を尻目に、洸輝はあっけらかんとした表情と声で話す。

「要するに此処は異世界なんだろ? 何できたのかなんて今はいいから、どうにかして寝床を確保しないとやばいって」

「洸輝、それは確かに大事かもしれないけど・・・・この状況で何でそこまで冷静でいられるのさ」

「慌てたって意味ないだろ? 俺たちがここにいるのが偶然か、それとも必然か、必然だったら・・・・結構やばいと思うぞ」

こういったことを洸輝が言うのは初めてではない、いくどか同じようなことを言ったことがあった。
それを踏まえて竜児は考える、結局は洸輝の言うとおりにするしか思いつかなかった。

「逸理はどうする? 僕は洸輝の意見に従うことにするけど」

「賛成する。とりあえず寝場所か、当座の家を探さないとならないだろうしな。下手すると帰れないかもしれないんだし」

後半の言葉は洸輝と竜児の耳には届かなかったらしい、苦笑した竜児が洸輝へと向き直る。
それを見ながら、逸理は足元に落ちていた三つの青い石を拾いポケットへ。

そのまま三人は林の中へ、向かうのは光の見えた方角・・・・すなわち町のあるだろう方へ。
意外と広い林を抜けるとそこは公園で、ばったり出会ったのは白い服を着た短いツインテールの少女。
その手には金の装飾で赤い宝玉を囲った白い杖を持ち、呆然と三人の方を見ている。

「洸輝、竜児、上5後3から少々でかい犬が飛び掛ってきてる、避けろ」

逸理のその一言で三人同時に少女の方に走り出し、数拍遅れて三人のいた場所に人一人と同じぐらいの高さを持つ犬が着地した。

「お、おっきぃ!」

少女の声が公園に響くなかで、逸理は溜息を吐き、洸輝と竜児が素手で構える。

「逸理、分析任せた」

洸輝の言葉に逸理は面倒臭そうに頷きながら一歩後退し、二人が犬に突っ込んでいく。
少女は呆然としながらそれを見送り、その肩に乗っているイタチ「フェレット!」・・・・フェレットが驚いたように叫んだ。

「なのは! ジュエルシードだよ!」

「ふぇっ!?」

わたわたとテンパる少女なのはを尻目に、二人と一匹の戦いを見ていた逸理が小さく「大体わかった」と呟いた。
そして逸理は二人に向かって大声出す、なのはとイタチ「フェレットだってば!」はそれが意味することを理解できるはずもなく。

「洸輝、竜児、着地した時の音と見た目からしてそこそこ重い、200はないが・・・多分150前後ぐらい。とりあえずあの額の青い結晶っぽいのが弱所の一つ」

静かに、それでいて透き通るような声で逸理は続ける。なのはとイタチ「フェレットだって言ってるだろ!」は頭にハテナマークを浮かべながら見ているが。

「その他は普通の犬と変わらない。が、真上に少女一名、三時の方角距離5に別な犬っぽいのが一匹、敵意6:混乱4ってところか?」

「おうよ(了解)!」

逸理の言葉を聴いた二人の動きが、目に見える形で変化していく。
まるでそれが当然のように、先程までの動きが嘘のように、犬の攻撃が当たらなくなっていく。
洸輝の拳が犬の前足の付け根に当たり、犬がそちらに注意を向けると竜児が丸見えになった首に蹴りを叩き込む。
それを堪えた犬が竜児へと向き直ると、洸輝が犬の腹にその拳と叩き込み犬をくの字にへし曲げ、犬の眉間に竜児の蹴りが追撃される。

「洸輝、6番、5番、1番の順に、竜児は3番、9番、5番の順で」

それを見た逸理が二人に番号を伝える、彼ら三人が考案した戦いの中での行動伝達の方法の一つである。
洸輝が動く。犬を横から見た中心と前足の付け根の丁度中間にその左拳を叩き込み、反時計回りに回転した回し踵蹴りを犬の額へ。
竜児も動く。洸輝とは反対側で中心と後ろ足の付け根の丁度中間にその右拳を叩き込み、洸輝の踵を額に受けてくの字に縮まった背中に竜児の踵が落ちる。
竜児の踵落しによって強制的に逆のくの字に曲がった犬、竜児の踵が落ちた丁度反対側の犬の腹に、洸輝がその右拳を突き上げる。
その攻撃によってくの字に曲がった犬の額に、洸輝の突き上げを利用して縦回転し遠心力と速度を上げた踵を落とす竜児。
二人が離れ、地面に音を立てて落ちた犬は動く気配を見せず、口から泡を吹きながら痙攣し始めた。

「・・・・・やりすぎたか?」

「うん、やりすぎたかも?」

「別に気にするほどでもないだろ、一晩経てば起きる・・・・と思う」

呆然とするなのはとイタチ「フェレットだってばー」を見事にスルーしながら話す洸輝たち三人。
イタチ「フェレットなんだってばー」がついに泣き出したが気にしない方向で、寧ろスルー推奨。「頼むからフェレットっていってよー!」
上空にいた金髪の少女はその目を見張り、その目を擦って見るが犬が倒れているのは変わらない。
なのは、上空の少女、イタチ「フェレットだってば・・・・」、赤い犬「狼!」失礼、赤い狼、この二人と二匹は自分たちの常識を疑っていた。
少なくとも青い宝石《ジュエルシード》の暴走で取り付かれた生物を魔法を使わずに倒すということ自体、できる人物を知らないのだ。

「なのは・・・・魔法も使わないで倒しちゃったね・・・・・・・」

「うん・・・・・すごい」







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